外科同門会発展第二章 No Pain & Brain, No Gain!

2008年は徳大外科同門会にたくさんの新人が入局してきた大変メモリアルな年です。この機会に、昨年からの外科同門会の進歩とこれからの在り方を述べてみたいと思います。同門会の進歩としては、三つあげることができます。
一つは、徳大外科として3分野が合同で徳島県の28名の高校生を対象とした第一回のキッズセミナーを開催することができました。内容としては、手術場にて、手術用ガウン、手袋を着用し、(1)内視鏡外科手術シミュレーター「Lap Mentor」による模擬手術(図1)、(2)トレーニング体験、縫合糸による結紮体験(模擬皮膚縫合、糸結び練習)、(3)超音波凝固切開装置「ハーモニックスカルペル」による模擬手術体験 (手術台上にのせたコンニャクを切開)、(4)内視鏡外科手術トレーニング用エンドトレーナーでの鉗子操作体験 (鉗子による輪ゴムの把持、移動、結紮、手袋の切離等)、(5)自動縫合器のファイヤー体験 (スポンジ模擬臓器に実際に自動縫合器をファイヤー)(図2)、(6)乳房組織生検の模擬体験 (マンモト−ムで吸引式乳房組織生検の模擬体験)、(7)人工血管を用いた血管吻合体験(図3)を行い、修了式(図4)では香川病院長をはじめ、外科3教授の直筆署名入りの修了証を1名ずつ手渡されました(図5)。この企画は、徳島新聞をはじめ朝日新聞、読売新聞でも「高校生が模擬手術体験」、「未来の「医龍」来たれ」などと大きく取り上げられました。お手伝いいただいた関係者の皆さん有難うございました。
二つ目は、これも3分野が協力して、日本外科学会第22区(四国)の評議員選挙で、露口会長を含め4名当選できたことです。1,126名の有権者数のうち有効投票数が749票、うち徳大が298票で有効票の4割を獲得することができました。皆さんのご協力に感謝申し上げます。また、若い外科学会会員を増やしさらに発展を期したいと思います。
三つ目は、昨年、同門会総会において徳島県内で初期研修を行っている若い医師に対する大学からの積極的な外科の魅力を伝えるアプローチ不足が問題提起されましたが、今年2月に静岡での内視鏡外科のトレーニング(アニマルラボ)を企画できました(講師は癌研有明病院の福永先生)。この企画に市民病院で研修をしている3人の研修医が参加してくれ、大学の後期研修医や癌研有明病院にがんプロフェッショナル養成プランを利用して研修している吉川君、東島君達と一緒に参加し、前日の懇親会や実際のアニマルラボで楽しいひと時を過ごすことができました(図6)。参加した研修医からは“めっちゃ楽しかった”とコメントをもらいました。来年も是非、規模を拡大し続けていきたいと思っています。
このように徳島大学外科の一層の協力体制の強化と目に見える成果が出てき始めました。3分野が今後も力を合わせ、日本に冠たる、また世界に飛翔できる教室・同門会となれるよう全力投球していきたいと考えています。

次に、これからの同門会の在り方について、最近読んだ雑誌の大変興味深い内容を抜粋しつつ述べてみたいと思います。その内容は、“集団の力学”の根底に“性弱な人間”の姿があるというものです。古代中国で性悪説を唱えたのは荀子ですが、『荀子』という本の第一巻は「勧学」であり、また冒頭には、「君子曰く、学は已むべからず。青はこれを藍より取れども藍より青く、氷は水これを為せども水より寒たし」という皆さんのよく知っている文句があります。荀子は、「人間は自然の欲望を持っているために努力をしないとついつい悪い面がでてくる。それを出さないために学ぶことが重要で、努力すれば、青は藍よりも青くなれる」と言いたかったわけです。「性善なれども弱い」人間が集団になっているのが組織です。人が集団として仕事をする時、刺激とそれへの反応という相互作用(例えば、元気のいい人と一緒にいると自分もエネルギーをもらったような気分になる)の結果、集団の力学が発生します。集団の力学の第一は、よくも悪くも周囲と同化する力が個々の人の心の中に働く横並びの力学です。横並びの力学には、一つにまとまるための原動力になるという良い面と、反対意見を言うことが憚られたりユニークなアイデアを言い出しにくくなるような悪い面の両面がありあます。集団の力学の第二は、エントロピーの力学です。エントロピーとはモノや熱の拡散の程度を示す概念であり、有名な熱力学第二法則はエントロピー増大の法則として知られ、放っておけば熱やエネルギーは拡散する、秩序は無秩序に向かうとする法則です。人間集団もまた「バラバラになっていく」というエントロピーの力学が働きがちになるわけですので、集団に適宜正しいエネルギーを注入する必要があります。水が低きに流れるごとくに人々の判断基準が低下することへの、先輩や指導者からの正しい方向性の提示ときめ細かい配慮が必要となります。第三の集団の力学は、ドミノ倒しのように波及効果の連鎖が起きるというドミノの力学です。この波及効果も、マイナス方向にもプラス方向にも働きます。ドミノ現象で組織のどこかで起きた性向が一気に広まり組織が盛り上がることもある一方、最初に起きる沈滞現象が次第に組織全体にガンのように広まることもあります。三つの集団の力学の背後には、“性弱な人間”の姿があることを理解し、これらの力学をプラスの方向へ利用することをみんなで協力実行することがこれからの同門会にとって大切と思います。

そして、時代が変化しようともやっぱり“No Pain, No Gain!”です。価値があるものを得ようと思えば苦労はつきものですし、苦労を避けていては得られる充実感(or自信)は少なく、やりがいや生きがいは得られません。楽しんでやる苦労は、苦痛を癒すものだということもあります。そしてこれからは、"No Brain, No Gain"の時代です。徳島大学外科の益々の発展のために、みんなでもうひと頑張りしましょう!

Young Surgeons, "No Pain & Brain, No Gain!"