昨年度は徳島大学外科同門会においても嬉しいことがいろいろありました。
一つめは、岩田貴君が同門会の皆さんならびに医療教育学分野の赤池教授のお力添えで、新たに創設された徳島大学教養教育院の教授に栄転したことです(写真1)。彼のこれまでの外科を中心とした医療教育開発センターのラボの運営や医学教育にかける努力が実ったもので、我々同門会としても医学部生や研修医のリクルートに大いに役立つものと期待しています。
二つめは、昨年の消化器外科学会で外科同門会の悲願のひとつでありました日本消化器外科学会の2016年徳島開催が決まったことです。評議員の皆さんに対して行ったご挨拶を皆さんにも抜粋して紹介したいと思います。
「―――私は地方都市の外科教室を主宰するものとして、“若い外科医が輝き続けるために” をキーワードにnoblesse obligeを尊ぶ誇り高き若い外科医の育成を目指し、人間力とintelligent surgeonたることの重要性を伝えながら外科医の育成を模索してまいりました。その一つの成果として、徳島大学に赴任後のこの十年間に 新たに四人の消化器外科評議員の育成を行うことができました。本総会の徳島での開催は、昭和44年10月に田北周平教授が本会の第二回総会を徳島で開催されて以来、約五十年ぶりの開催となります。総会では、学術的内容の充実はもとより 若手・女性外科医の視点や地方都市からの視点、オーソドックスとセレンディピティーの観点など加味し“元気”あふれる国際色豊かな楽しい集会としたいと考えております。四国は今年、弘法大師が四国霊場88ケ所を開創されて1200年にあたります。徳島はその中で第一番から二十三番までの札所がある「発心の道場」と言われ古くからお遍路さんを心から迎える「おもてなし」の精神が根付いています。来る第71回総会を永く記憶に残る学術集会とするため。徳島大学丹黒 章教授と力を合わせ、教室員はもちろん、徳島大学大外科同門一同ともども全力を尽くし、日本の「お・も・て・な・し」のてっぺんを目指す所存であります。何卒、先生方のご理解とご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。」
是非とも、外科同門会のみなさんのご協力を得て実りある学術集会にしたいと考えておりますのでよろしくお願いします。
三つめは、若手が少しずつではありますが育ってきていることです。昨年も東島君をはじめ4人のFACSが誕生しました(写真2)。また、栗田君が森根君、居村君の次に消化器外科学会の評議員となりましたし、今年の一斉選出では池本君が選出確実な候補となっています。若い同門会の先生たちにはどんどん大きいな舞台に出て行ってもらい徳島大学外科を大いにアピールしてもらいたいと思っています。
さて、話は変わりますが、2015年の年頭にあたり今年の字を「考」にしました。これは昨年の巻頭言に書いた組織構築論における”Inclusion”という概念(”Diversity”という人々の差異や違いを意識した言葉とは異なり一体になるという意味合いが強い)を具現化するのに必要と感じているからです。”Inclusion”が実現した組織では、さまざまな人が自分らしい形で組織に主体的に関わり、力を最大限に発揮することができること、また組織に常に異なる考えや新しい考え方が入ることで組織のイノベーションが起こること、そして、人々が対等に関わり合うことで相互に成長や変化することが促され、理想的な組織が出来ると言われています。しかしながら、この理想的な組織構築には一人一人が“自分がその組織で個性的に何をするか(どう貢献するか)”を「考」える必要があるわけです。我々外科同門会の一人一人がどのように同門会の発展に寄与できるかを「考」えて行動することの重要性、また臨床、教育、研究の中でもしっかり「考」える習慣を身に付けることの重要性をみんなで共有するために、「考」を今年の一字にしたわけです。
最後に、これからの医療を考えるうえでも重要と考えられるIoT(Internet of Things)という概念を皆さんに紹介したいと思います。IoTは、クラウド、ソーシャルネットワーク、ビッグデータに続く重要トレンドで、「モノのインターネット」として計り知れない可能性を秘めていると注目を集めています。IoTの概念は、従来型のインターネットがコンピューターのネットワークであったのに対して、テクノロジーの進化により、今まではネットワークに接続されていなかった「モノ」がセンサーなどを装備することによってインターネットを介して情報をやり取りする能力(モノの個体情報を識別したり、モノがおかれた状況を把握したり、モノ自体を制御することなど)を備えていくということです。IoTに相当する概念は、1990年頃から議論されてきたもので、概念としては新しくはないがテクノロジーと利用環境の変化により急速に重要性が増しているという点ではクラウドやビッグデータとも共通する部分があります。医療においては、スマートヘルスケアがヘルスケア版のIoTと考えられます。具体的には、人から健康に関するデータを取得するための医療機器やセンサー(ハードウエア)と、データを処理して医療や介護などの活動に役立てるためのシステムやサービス(ソフトウエア)を融合させる取り組みです。特に注目されているのは、スマートフォンやタブレット端末といった通信機能を備える携帯機器と組み合わせることで、既存の医療行為(例えば血糖管理、血圧管理、検査値や画像診断データを含む電子カルテ情報を共有するメディカルワレットなど)を支援するようなシステムです。地域外科診療部で始めている、大学と三好病院を双方向につなぐ遠隔診断支援、遠隔手術支援(テレメンタリング)などもIoTに相当すると思います。皆さんとこのIoTを外科医療、教育、研究にどううまく利用すればよいのか、これからの医療にどのように活用していけるかをともに考えたいと思います。
“Young surgeons, the scholars may surpass the master!”
写真1
写真2
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