今年は同門の皆さんの応援のおかげで、徳島大学外科の悲願の一つである第71回日本消化器外科学会総会を徳島の地で主宰させていただくことになりました。昨今の外科医療を取り巻く状況をふまえ、また若い外科医へのメッセージとして、総会のテーマは「外科の矜恃」と銘打ち、サブタイトルにもこだわり、Orthodox & Serendipityとしました。
テーマの矜恃(きょうじ)という言葉には、プライドとは異なる意味合いの「自分の能力を信じて抱く誇り」といった意味や「職業人が持つ独特のこだわり、信念を貫こうとする意思」という意味が含まれています。私たちは今こそ外科医としてまた組織・学会として社会や若い世代に対して、憧れや確かな信頼を感じてもらえる「矜恃」を持たなくてはならないと強く思っています。「矜恃」を確かなものとするためにサブタイトルに思いを込めました。オーソドックスは、私自身これまでもオーソドックスな外科臨床・研究を常に心懸けてきましたが、奇を衒った臨床や研究はもはや過去のものでエビデンスに基づいたオーソドックスな臨床や研究がきわめて重要であることを再確認するためです。セレンディピティーは、過去を踏襲しただけの何の変化も求めない日常臨床・研究に埋没することなく常に新しいものを探すという気持ちで一つの夢や目標を全力で追求する過程で思いもよらないユニークな事象にぶち当たった時に、想定外だが新発見に近いものと認識する能力と言えます。細菌研究で培養実験をしていたアレキサンダー・フレミングが誤ってアオカビを混入させたことがのちに世界中の人々を感染症から救う抗生物質ペニシリンの発見につながった事実が典型的なセレンディピティーです。
オーソドックスな消化器外科診療・学問を追求し、その中にセレンディピティーとして新たな事実を認識する能力を私自身追及していますし、是非皆さんにも共有して頂きたいと思っています。
徳島での開催は、昭和44年10月に田北周平教授が第2回総会を開催されて以来、約五十年ぶりの開催となります。総会では若手・女性外科医の視点や地方都市からの視点など加味し、“元気”あふれる国際色豊かな楽しい集会とする予定です(今年、外科学会の代議員になった高須千絵君が特別企画の担当をしてくれています)。特徴としては、@主題以外はすべてポスター発表、Aポスター司会には評議員から推薦いただいた若手外科医や女性外科医を当てる、Bアプリで抄録のみならずポスター内容も閲覧できるなど新たな試みを入れています。学会の情報はHP (http://www.congre.co.jp/jsgs2016/top.html) で随時更新していますので是非ご確認いただきご意見をいただきたいと思います。
四国は、弘法大師が四国霊場88ケ所を開創されて1200年余にあたります。徳島はその中で「発心の道場」と言われ古くからお遍路さんを心から迎える「おもてなし」の精神が根付いています。七月中旬のまさに暑い夏の真っ只中、阿波徳島での本総会が徳島大学外科の次の10年に向かっての臨床・研究・教育の礎となり、更なる発展の起爆剤となると確信しています。総会を永く記憶に残る学術集会とするためにも、日本の「お・も・て・な・し」のてっぺんを目指したいと思っていますので皆さんのお知恵を拝借できれば幸いです。
さて今回は、医療の分野でその重要性が高まってきている“マーケティング“について考えたいと思います。マーケティングといえばフィリップ・コトラーという、マネージメントの神様と知られるドラッカーと並び称される方が有名です。なぜこの”マーケティング“の重要性が認識され始めたかというと、かつては「良いものを作れば売れる」という時代でしたが、現在は顧客のニーズが多様化する中で市場全体を対象に製品やサービスを開発・提供するのが極めて困難になってきたからです。少し詳しく見てみると、図のように組織が目的を達成するための機能としてマーケティングとイノベーションのバランスが重要であり、マーケティングはさらにR→SRP→MM→I→Cという5つのステップがあります。この中でもSRP、すなわちセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングが重要で市場の中から共通のニーズを持つグループを区分けすることをセグメンテーションとよび、そして明らかとなったセグメント(グループ)につて自らの強みを発揮できるセグメントを明確にするターゲティングと呼びます。ターゲットに対してぴったりと合うような製品やサービスの位置づけを検討し自らの価値を高く評価してもらうことをポジショニングと呼びます。このSTPが明確になった後に、具体的戦術である「マーケティングミックス」を検討することになります。マーケティングミックスとは、マーケターがマーケティング業務をする際にとりかかるべき4つの領域・分野のことで、Product:製品(戦略)、Place:流通、Promotion:広告・宣伝・コミュニケーション、Price:価格、がありこれらの頭文字を取ってマーケティングの4Pともいわれます。紙面の関係で概念的なことしか書けず分かりにくいかもしれませんがインターネットなどで実例を調べてみればなるほどと納豆すると思います。いずれにせよ、今後、病院経営だけにとどまらず、外科医のリクルート・育成、医学研究の発展にもこの手法が使えると思っています。是非皆さん、一度考えていただければ幸いです。
そして若い外科医の皆さんに再度次の文章を送りたいと思います。
“Young surgeons, the scholars may surpass the master!” (「青は藍より出でて藍より青し」(青藍の誉れ))
Serendipity
The natural ability to make interesting or valuable discoveries by accident.
何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力を示す言葉で、何かを発見したという現象でなく、何かを発見する能力を示す。偶然をきっかけに閃いて幸運をつかみ取る能力のこと。
第71回日本消化器外科学会総会ポスター
資料
|