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2022年は寅年ですが、本来の干支でいうと壬寅(みずのえとら)です。「壬」は「妊に通じ、陽気を下に姙(はら)む」、「寅」は「螾(ミミズ)に通じ、春の草木が生ずる」という意味があり、この2つの組み合わせの壬寅は、「生まれたものが成長すること」を表しています。外科同門会にとっては、滝沢教授が就任され、新たな門出にふさわしい年になるものと感じています。また教室では昨年、学会の特別企画やシンポジウムで働き方改革、アカデミックサージョン、外科の手術教育のセッションで若手が大活躍してくれました(「地方だからこそ発信できるインクルージョンを目指した働き方改革」髙須千絵、「アカデミックサージョンを目指して:地方から世界に通用する一流の外科医を目指した取り組み」齋藤裕、「外科教育のピットフォール:徳島大学の肝胆膵外科における若手教育」山田眞一郎)。今年も壬寅にあやかり、さらなる成長を期待したいところです。
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さて、現代は、「VUCAの時代」と称されています。VUCAとは、4つの言葉(①Volatility(変動性)、② Uncertainty(不確実性)、③ Complexity(複雑性)、④ Ambiguity(曖昧性))の頭文字をとった造語で「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。元々は1990年代後半に軍事用語として発生した言葉ですが、2010年代に入ると、昨今の変化が激しく先行き不透明な社会情勢を指して、他分野でも急速に使われるようになりました。実際、現代はAI・ICTなどのデジタル革命、新型コロナウイルスのパンデミックや、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象、ロシアのウクライナ侵攻など、まさに予測が困難な事象が次々と起こっています。VUCAは今までの常識が非常識になるnew normalにも一部通じる概念と思います。そしてVUCA時代には、意思決定方法としてよく知られている「PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクル」よりも、「OODA(ウーダ)ループ」という手法が適切と考えられています。OODAループは、「観察する(Observe)」、「状況を理解する(Orient)」、「決める(Decide)」、「動く(Act)」の頭文字をとった言葉です。最初に計画することから始めるPDCAと違い、OODAループは、観察と状況判断すなわち現状分析から始まり、その状況を的確に判断し、対応していき、何度もループを回すことで、自らの問題解決力が向上する方法と言われています。したがって先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態の時には、この方法の方がより迅速で正確かつしなやか(レジリエンス)な対応ができると考えられています。しかし、よく考えるとこのOODAループは日々我々が臨床で行っている思考判断に極めて近い意思決定方法かもしれません。
私はAIなどのテクノロジーがさらに発達するこれからのVUCA時代において、特に医療界では、このOODAループとともに、論理的思考力とは別の人間ならではの「感性」、すなわち第6感が必須になると感じています。そこで現在、教室員のみならず臨床実習の医学生たちに、これからさらなるVUCA時代になること、今まで以上に自分たちの感性が重要になること、さらには感性を研ぎ澄ますためにいろいろと工夫する必要があることを教え伝えています。例えば、毎日の回診では、患者が何を不安に思っているのかなど、患者の雰囲気、言動、昨日とのわずかな違いを、まさに、つぶさに“観察(Observe)” して、患者の気持ち・気分あるいは病態を“理解(Orient)”し、ベッドサイドでの会話の内容や検査・処置を“決定(Decide)”、“実行(Act)”しています。そして、私のその姿を近くで直接見せ、わずかな違いに気付く、わずかな違和感をとらえる「感性」を少しでも共有して体感できるよう工夫し教えてます。このリアルな臨床講義は医学生たちには極めて大きな気付きになるようです。
写真1:サンタクロース回診(学生たちと一緒に)
写真2:実習の試問後に学生たちとひとこま
さらに、VUCA時代だからこそ、原 晋監督(青山学院大学)が次に言われるような強い「覚悟」も必要と思います。「なんとしても結果(手術が上手くなる)を出すという強い覚悟がなければ、なかなか練習に身が入らないし、結果にもつながらないものです。なぜなら、『人は怠ける動物』だからです。自分はなんのためにここにいるのか(外科医になっているのか)をはっきり認識していれば、歯止めは自然にかかるからです。陸上競技部の部員(外科医)であれば、それは走る(手術で治す)ことです。
そのことをいつも忘れないように、選手たちの生活拠点を寮(教室/外科同門会)にすることは一つの方法だと考えています。帰る場所が定まっている人は、道を踏み外さないものです。」(括弧内は外科に当てはめた場合)
若い皆さん、感性を研ぎ澄まし、強い覚悟を持って臨床の腕をあげ、これからのVUCA時代の先頭を走っていきましょう。
毎回書いていますが、これからの時代の主役は若い皆さんです。VUCA時代に感性を高め、先頭に立って益々活躍されることを祈念しています。
“Young surgeons, the scholars may surpass the master!” 『出藍之誉』
参考文献
NTT Communications ITコラム
OODAループ思考がVUCA時代の道標に!PDCAとの違いとは?図解で意味を解説
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