【肝胆膵領域】肝臓がん


《肝がんとは》

肝臓癌は年々増加傾向にあり、男女ともに悪性腫瘍による死亡原因の中で上位を占めています。肝臓癌の中でも、B型またはC型肝炎から発生する肝細胞癌がそのほとんどを占めていますが、日本ではB型肝炎ウイルスに持続感染している人が100万人以上、C型肝炎ウイルスに感染している人も200万人近くいます。幸いなことに新たに感染する人は殆どいませんが、数十年も以前に感染した人々が次々に発癌年齢に到達するため、肝臓癌による死亡者数は今後2015年頃まで増加し続けると予想されています。更に最近ではとくに肝炎の既往がなくとも肥満率より生じるNASHと呼ばれる病態が増加しており、注意を要します。

 

《最新の診断》

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているように、初期の肝臓がんには特有の症状は少なく、 肝炎・肝硬変などによる肝臓の障害としての症状が主なものです。診断には血液検査と画像診断法が行われます。

【血液検査】 

肝細胞癌に特有の検査として、α−フェトプロテインPIVKA-IIの腫瘍マーカーがあります。

  • α−フェトプロテイン(AFP):肝細胞がんのおよそ90%で陽性になる腫瘍マーカーです。元来は胎児の肝臓で産生される糖タンパクで出生後には急速に低下しますが、肝癌になるとこのタンパク質の合成が活発になるため陽性になります。ただしAFPは慢性肝炎や肝硬変で肝細胞が壊れて、再生されるときにも上がってくるので、最近ではAFPの中でも特に肝細胞癌でのみ増えるL3分画が注目されています。L3分画が陽性の場合には、がん細胞自体がつくっている、あるいは少し進んでたちが悪くなりかかっていると考えられます。
  • PIVKA-II:肝細胞がんに特有の腫瘍マーカーで他の疾患では上昇することは少ないのですが、 ビタミンK欠乏の時にも上昇することが知られています。最近ではビタミンKが肝細胞癌の予防に関与しているとの報告もあり、注目されています。

【画像検査】 

  • 超音波検査:肝臓がんを早期に発見するうえで有効な検査です。直径が1〜2cm程度の小さな肝がんでも見つける事ができる確率が高く一般にも普及している検査です。
  • CT検査:体内の詳細な画像を連続的に撮影し、コンピュータで分析することで鮮明な画像を得ることができます。最近では機器の発達とともにいろいろな角度から立体的に観察することが可能です。
  • MRI検査:磁場を使っていろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影する検査です。 放射線の被曝がなく超音波検査やCTで見分けの付きにくい病変も診断できる場合があります。
  • 血管造影検査:足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を肝臓まで挿入し、血管を観察します。薬剤を注入することで癌の治療にも用いられます。
 
 

《最新の治療》

肝臓癌の治療法は内科的治療と外科的手術に大別されます。

【内科的治療】 

  • マイクロ波凝固療法(MCT)、ラジオ波焼灼療法(RFA):マイクロ波凝固療法は、電子レンジにも使われているマイクロ波を利用して癌を焼いて殺す治療法です。またラジオ波を使って癌を焼いて殺すラジオ波凝固療法もあります。ラジオ波はマイクロ波と比べて温度が高くならないため危険性が少なく、現在積極的に行われていますが、この治療法はまだ新しい方法で長期的な効果は不明です。
  • 肝動脈塞栓術(TAE):肝臓癌に栄養を送っている肝動脈を塞いで、 肝臓がんが酸素や栄養を供給されないようにし、壊死させる治療法です。
  • その他の最新の治療:免疫療法としての活性化リンパ球(LAK)療法や、ビタミンA誘導体であるレチノイド投与により癌細胞を自然死させる治療、また放射線治療の一種で、目的とする癌の場所にだけ放射線を当てることで、正常な肝臓に障害を与えず治療が可能な重粒子線療法などが研究されています。
  • 分子標的薬(ネクサバール)が認可され、大規模共同研究が行われた結果、肝癌診察ガイドラインにも収載されました。この薬は経口薬であり、副作用はあるものの、当科においては処方可能です。

【外科的治療】 

  • 肝切除術:腫瘍を含む肝臓の一部を切除する肝切除術が一般的です。徳島大学消化器外科では過去10年間に約200例の肝切除術を行っており、高度に進行した症例や高齢者も含めた術後5年生存率が48%と、全国統計と同等の成績です。手術によって腫瘍が完全に切除できた後も、肝炎に感染した肝臓には癌が再発します。当科では手術後にインターフェロンと抗癌剤を組み合わせた治療を行っており、良好な成績が得られています。
    近年、当科では積極的に腹腔鏡手術を取り入れており、非常に小さなキズで切除可能となっています。

 
  • 肝移植:肝臓癌の新しい治療法として肝移植が注目されており、平成16年からは保険適応が認められました。肝移植では癌の治療と同時に、肝炎に感染した肝臓そのものを取り除くため、残った肝臓での癌の再発が減少するだけでなく、肝硬変による肝不全の治療も可能です。ただし日本では脳死の考え方が一般的でなく、移植のほとんどが親族からの生体肝移植によって行われています。日本における肝臓癌に対する生体肝移植の成績は5年生存率が約60%ですが、長期的には肝切除と比較して生存率に大きな差がつく可能性が高いと思われます。肝移植はまだまだ発展途上の治療であり、今後さらに治療成績が向上することが期待されています。
 

《最後に》

肝臓癌には確立された予防法はなく、肝炎の治療と肝硬変への進行を遅らせることが癌の発生を抑えるとされています。また一般的に無症状であり、早期発見のためには定期的な検査が不可欠です。早期の段階で発見されれば、治療の選択の幅も広がり、患者さんにとって負担が少なく、根治的な治療が可能となります。一方、進行癌や再発例についても新しい治療法が研究、開発されており、あきらめずに治療を続けることが重要です。


CLOSE