はじめに
肝臓は栄養などの合成や代謝、解毒、血液貯蔵、胆汁排泄などさまざまな機能をつかさどっており、生命維持に不可欠な臓器のひとつです。肝臓は栄養などの合成や代謝、解毒、血液貯蔵、胆汁排泄など多様な機能をつかさどっており、生命維持に不可欠な臓器のひとつです。しかしながら、様々な原因から肝機能低下が進行した場合に肝硬変へと移行し、さらに非代償性となった場合には代替えの治療方法はありません。
肝移植は他に救命できる治療法のない末期の肝不全患者に対する究極の治療法です。欧米では1963年に米国のStarzlらが初めての肝移植を行って以降、脳死肝移植を中心に発展を遂げました。一方で、我が国では血縁者、配偶者等が自分の肝臓の一部を提供する生体部分肝移植を中心に発展を遂げました。
脳死肝移植と生体肝移植(図1)
「臓器移植に関する法律」の施行後、本邦では2018年11月までに497例の脳死肝移植が実施されています。脳死肝移植実施施設は25施設あります(2018年11月時点)。しかし、脳死肝移植の数は欧米に遠く及ばず、その数が少ないこともあり、生体部分肝移植に頼らざるを得ない現状があります。生体肝移植は1989年に初めて、親から子供に対して行われ、成人間の生体肝移植は1993年に初めて施行されました。生体肝移植の総数は1989年の開始以降、毎年着実に増加を続け2005年に570例のピークに達した後、2006年に初めて減少に転じ、2007年以降は年間400例程度の生体肝移植が行われており、2017年末までの生体肝移植数は8,795例となっています(図2)。生体ドナーにかかる負担、リスクの問題は永遠に解決されませんが、レシピエントの手術成績は向上しており、本邦の脳死肝移植と生体肝移植の成績は同等です。脳死肝移植数は2009年までは年間2〜13例にとどまっていましたが、改正法が施行された2010年に30例と著明に増加し、2015年には初めて年間50例を超えました。さらに2017年は69例となり、今後の脳死ドナー数の増大が期待されます。
肝移植の適応
進行性の肝疾患のため、末期状態にあり従来の治療方法では余命1年以内と推定されるもの。ただし、先天性肝・胆道疾患、先天性代謝異常症等の場合には必ずしも余命1年にこだわりません
具体的には以下の疾患が移植の対象となります。
(ア)劇症肝炎
(イ)先天性肝・胆道疾患
(ウ)先天性代謝異常症
(エ)Budd-Chiari症候群
(オ)原発性胆汁性肝硬変症
(カ)原発性硬化性胆管炎
(キ)肝硬変(肝炎ウイルス性、二次性胆汁性、アルコール性、その他)
(ク)肝細胞癌(遠隔転移と肝血管内浸潤を認めず、径5cm 1個又は径3cm 3個以内のもの)
(ケ)肝移植の他に治療法のない全ての疾患
年齢制限は施設により基準が異なります。徳島大学病院の生体肝移植ではレシピエント年齢は65歳以下という基準を設けています。
徳島大学病院における生体肝移植の成績
2004年4月に生体肝移植プログラムを再開し、2019年3月までに24例に対して施行した。グラフト選択はドナーの安全性を最優先に考え、左葉グラフトを第一選択としている(24例中、21例が左葉グラフト、3例が右葉グラフト)。
肝移植成績については、全体では1年91.7%、5年87.5%、10年82.4%であり(図3)、肝癌に対する肝移植(n=8)では1年100%、5年87.5%、10年75%(3例のミラノ基準外症例含む)であった(図4)。
血液型不適合肝移植
生体肝移植では血液型が異なっていても移植が可能です。3歳未満では血液型が一致している場合と全く同じです。年齢が大きくなるにつれて特別な拒絶反応がおきるので免疫抑制療法を工夫して行います。成人ではかつて生存率は20%でしたが、特に2004年半ばよりリツキシマブという薬剤が臨床使用され始めて以降は、血液型適合と遜色ないほどに改善しています(一致:1年86%、3年82%、5年79%、適合:1年86%、3年82%、5年79%、不適合1年80%、3年75%、5年74%)(図5)。2016年にリツキシマブは保険適応となり、血液型不適合生体部分肝移植は通常診療の範疇となりました。
徳島大学病院ではこれまでに5例の血液型不適合肝移植を行っています。リツキシマブ投与に加えて、移植前の血漿交換、移植直後からの門注療法、IVIG投与などの免疫抑制プロトコールにより、これまで重篤な抗体関連拒絶も経験せず全例生存しています(図6)。
<お問い合わせ先>
徳島大学病院 患者支援センター内
肝疾患相談室
電話:088-633-9002
相談受付時間 平日8:30~17:00
※土・日・祝祭日、年末年始を除く。