<術後の合併症は?>
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肝不全の患者さんは、凝固因子産生の低下、血小板数の低下や門脈圧亢進症による側副血行路の発達により非常に出血しやすい状態にあります。肝臓移植後もしばらくそのような出血しやすい状態が持続します。したがって手術中の大量出血や術後の再出血のリスクは、その他の手術に比べて格段に高くなります。再手術によって止血しなければならないこともまれではありません。
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肝不全患者は全身状態が非常に悪く、易感染状態にあります。さらに肝移植という大きな手術侵襲に加え、術後に拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を飲まなければなりません。したがって細菌、ウイルス、カビといった感染症に非常にかかりやすいのです。通常の健康な方には問題のない病原体でも移植後の患者さんにとっては致命的になることもあります。特に移植直後では免疫抑制剤の量も多く、注意が必要になります。
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肝移植では肝静脈・門脈・肝動脈の最低3本の血管を吻合します。なかでも肝動脈は非常に細く(通常2mm程度)、顕微鏡で見ながら吻合しなければなりません。したがって血栓などで詰まりやすいのです。放置すれば移植した肝臓がダメになるためすぐに対処せねばなりません。生体肝移植後は術後毎日エコードップラーで血流の状態をチェックします。
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胆管の合併症にはつないだところや肝臓の切り口から胆汁がもれる胆汁漏やつないだところが狭窄する胆管狭窄があります。特に生体肝移植では胆管狭窄の頻度が高いことが知られており、約20-30%の患者さんに起こります。通常、手術以外の治療で治癒しますが、一部の患者さんでは再手術が必要なことがあります。
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ドナーの方が他人であれ家族であれ、移植した臓器はレシピエントにとって異物であり拒絶反応はおこります。したがって移植後は基本的に一生免疫抑制剤を服用する必要があります。たとえ免疫抑制剤を服用していたとしても約30-50%の患者さんに急性拒絶反応が起こります。急性拒絶反応は無症状のことが多く肝機能検査異常と胆道系酵素異常がみられます。黄疸や発熱、腹痛、腹水の増加もみられることがあります。肝生検を行って肝組織を直接顕微鏡でみて診断します。通常、ステロイドなどの薬で治療可能ですが一部の患者さんでは、もっと強い免疫抑制剤が必要になることがあります。移植後1週間〜1ヶ月が好発時期ですがそれ以外の時にも起こることがあります。また移植後3ヶ月以降に起きる慢性拒絶反応は治療抵抗性のことが多く、再移植が必要になることが多いのが特徴です。
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免疫抑制剤は一生飲み続けなければなりません。免疫抑制剤の副作用としては、腎機能障害、神経障害、糖尿病、高血圧、感染症、骨そしょう症、歯肉肥厚などが知られています。
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移植した肝臓が十分に働かないために肝不全におちいることを言います。重症の場合緊急再移植が必要になります。脳死肝移植では約5%程度にみられ、脂肪肝などが主な原因となります。生体肝移植ではまれです。生体肝移植では提供肝が小さすぎる場合に問題になることがあります。
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肝臓以外の悪性腫瘍や移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、移植片対宿主病(GVHD)など、その他様々な合併症が起こりえます。
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一部の疾患では、原疾患が移植後に再発することが知られています。代表的なものはC型肝炎やB型肝炎、肝細胞がんなどです。その他、自己免疫性肝炎や原発性硬化性胆管炎などの疾患も一部再発することが知られています。