|
|
令和6年能登半島地震により被災された皆様に衷心よりお見舞い申し上げます。
2022年の巻頭言「VUCA時代に『感性』を高めよう」ではOODAループを紹介しました。今回はVUCA時代真っただ中の今年から本格的に始まる“働き方改革”を考えるうえで、エンゲージメント(engagement)の重要性を紹介し、健全な“働き方改革”の実施に繋げたいと思います。
おさらいですが、VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(多義性)の頭文字を連結した言葉で、先々の展開を予想するのが難しく、あらかじめ精緻な計画を立てても、一つの「想定外」の発生ですべてが台無しになるような状況を指しています。そしてEconomic Policy Uncertainty Projectが算出した「経済政策不確実性指数」では、21世紀に入るとほぼ途切れることなく世界で予想外の事態が発生し、2020年以降も新型コロナウイルスの世界的な感染爆発やロシアのウクライナ侵攻、能登半島地震含む天災などの負のサプライズが続いており、不確実性の勢いが増していると報告しています。VUCA時代の状況下で、組織が発展し、成長を続けるためにはエンゲージメントの考え方が極めて重要と考えます。
エンゲージメントは、会社と働き手双方の信頼関係をベースとして、働き手が「組織の理念・ビジョン・方針に共感し、生き生きと自発的に貢献しようとする意欲」を意味します。社員満足度は、働き手が会社の待遇にどれくらい満足しているかを示した一方的な度合なのでエンゲージメントとは似て非なるものといえます。エンゲージメントが高い人は、自ら新しいことに挑戦し、また斬新なアイデアを提起し、周囲を巻き込みながら職場全体を活気づけることができます。それゆえエンゲージメントの高い人の多い組織は、環境変化を素早く察知でき、困難な課題に適切に対処する力やイノベーションの創出力もおのずと高くなると言われています。まさにVUCA時代にもってこいの資質といえます。米ギャラップ社が2022年に発表した「グローバル職場環境調査」によると、日本は調査対象145カ国中最下位で、「非常に意欲的な社員」の割合も世界平均が23%なのに対し、日本はわずか5%に過ぎないという危機的な結果でした。また、エンゲージメントを数値化する指標の一つに、米ギャラップ社がアメリカの心理学者シュミット博士と共同開発した「Q12(キュートゥエルブ)」があります。質問内容(表1)は、仕事の動機や環境が整っているかどうか(Q1~2)、自分の貢献と周囲の評価(Q3~6)、職場への帰属や同僚への信頼感(Q7~10)、そして職場全体での成長・発展への意識(Q11~12)です。これら12個の質問に対し、完全に当てはまる(5点)から全く当てはまらない(1点)の点数を合計し平均スコアを出します。平均点は3.6で、3.8を超えるとエンゲージメントが高め、3.2を下回ると要注意と言われています。
エンゲージメント向上のために、多くの組織がエンゲージメント調査を定期的に実施し、社員の仕事への向き合い方を継続的に計測し、組織の改善に使用しています。我々もこのQ12を用いて、医局や外科同門会のエンゲージメントをモニタリングするとともに、我々の組織に合った質問項目に変えていくのが良いと考えられます。また、エンゲージメント向上には、ワーク・ライフバランス(WLB)の推進、コミュニケーションの活性化、スキルアップの支援、働く環境の整備などの取り組みが重要と考えられています。
今年から本格稼働する働き方改革も、我々が早くから取り組んできた主治医制の廃止(チーム制への移行)、時間外説明の原則的廃止、タイムシフト制、仕事の効率化、Diversity & Inclusionの徹底などの改革に加え、WLBの推進やコミュニケーションの活性化(1on1ミーティング、年2回の休暇制度、阿波踊り(図1)、夏と正月の教室員の家族会(図2)、医局旅行(図3)など)をさらに積極的に行うことによるエンゲージメント向上を目指すとともに、心理的資本(外からは見えにくい教室員の心の状態)の見える化を行うことが健全な働き方改革の実行には必須と考えています。
結びに、2024年の干支は、十干十二支の41番目の年にあたる甲辰(きのえたつ)です。“甲”はものごとの始まりという性格があり、“辰”は草木が成長して活力が旺盛になる状態を意味します。これらが合わさる2024年はこれまで努力してきたことが、さらに飛躍して、一層の成長や大きな夢が叶うことが期待できると考えられます。
みなさんエンゲージメントを高めて成長や夢を具現化していきましょう。
“Young surgeons, the scholars may surpass the master!” 『出藍之誉』
表1 Q12の質問内容
Q1 |
職場で自分が何を期待されているのかを知っている |
Q2 |
仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている |
Q3 |
職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている |
Q4 |
この1週間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした |
Q5 |
上司または職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれている |
Q6 |
職場の誰かが自分の成長を促してくれる |
Q7 |
職場で自分の意見が尊重されているようだ |
Q8 |
会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる |
Q9 |
職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている |
Q10 |
職場に親友がいる |
Q11 |
この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた |
Q12 |
この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった |
仕事の動機や環境が整っているかどうか(Q1~2)、自分の貢献と周囲の評価(Q3~6)、職場への帰属や同僚への信頼感(Q7~10)、そして職場全体での成長・発展への意識(Q11~12)
図1 阿波踊り2023
図2 家族新年会2024年1月
図3 医局旅行(愛媛2019年)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|